理学療法士から見た「杖の選び方と考え方」

在宅でのリハビリテーション
チルチル
ここではリハビリでよく使われる杖について種類と用途を説明します。
歩行が不自由になってきた時、杖は大きな助けになります。「転ばぬ先の杖」ということわざがあるように、昔から杖は人を助ける道具として認識されていたようです。介護保険のレンタルでも、四脚杖、ロフストランド杖、松葉杖など特殊なタイプの杖はレンタルが可能です。

実際に杖を選ぶ時は理学療法士など専門職にアドバイスしてもらうと良いと思いますが、ここではどんな種類の杖があるのか、またどのような用途で選択しているのか、考え方をお話ししたいと思います。

杖の高さはどのように決めているのか?

まず、杖の高さですが、骨盤を真横から触り、下に滑らせると出っ張りがあると思います。これは大転子といって大腿骨(太ももの骨)の最も外に突き出た部分です。

杖の高さ(グリップの高さ)は地面からこの大転子までの高さを概ねの基準とします。この高さは杖を前に着いた時に肘が少し曲がる程度であり、大転子を探すのが難しければ、そのように判断すると良いでしょう。

また、身長÷2+3cmという計算式も目安として使われます。

この高さを参考として、その人に合わせて調節をします。例えば、円背(猫背)が強いと、手の位置は自然と下がるので杖も少し低めにすることを視野に入れます。

最近は高さを調節できるタイプ のものが多いので、もし新しく購入されるのであれば、そのようなものを選ぶと良いと思います。

高さに関して目安はあるのですが、長い間、使っている杖があり、その高さで慣れている場合は、それが基準と合わなくても調整しないことがあります。無理に高さを変えると、人によってはかえって動作がぎこちなくなる場合もあり、その人が安全で使いやすいこと が大切です。

杖の種類にはどのようなものがあるのか?

T字杖(一本杖)

「杖」と聞いて、真っ先に頭に浮かぶのがこのタイプの杖ではないでしょうか。私が理学療法士に成り立ての頃は、高さ調節機能がないタイプも多く、患者様が持ってきた杖をノコギリで切って高さ調節した記憶があります。中には木製ではなく金属製の杖を持って来た方もいて、その時は特殊なノコギリで時間をかけて切った記憶があります 😣

今は木製だけでなく、アルミ、カーボン、ステンレス、チタン、プラスチックなど様々な材質のものがあり、デザインもおしゃれなものが販売されています。

値段もネット通販で見ると千円しないものから1万円以上するものまで様々です。
実用面だけで言うなら、高価なものは必要ないと思います。病院に勤務していた時にリハビリ室に置いてあった杖を色々見ましたが、T字杖であれば3000円ほどのもので機能的には十分でした。

T字杖で比べる点は、高さ調節可能か、折りたたみ式か、材質は何か、重さはどうかくらいで、あとはグリップの握った時と突いた時の手に伝わる感触が違います。値段の高いものはグリップの握りにも気を配っていますし、突いた時の感触がしっかりしているように思います。安いものはそれに比べると突いた時に微妙な緩みを感じたり、カチャカチャかすかに音がしたり、差はそのような部分ではないかと個人的には思っています。あとはデザイン的な要素もあると思います。

私の好みで言えば、高さ調節はできる方が良いですし、折りたたみ式は突いた時にわずかながら関節部分が動く感触があるのでお勧めはしていません(高価なものであれば違うのかもしれませんが)。あとは使った時の感触で気に入ったものを選ぶのが良いと思います。

実際に杖によって感触はだいぶ違います。好みもありますので、自分で触って確かめるのが一番良い杖選びの方法だと思います。

参考までにネットで販売されているT字杖から私の好みに近そうなものを貼っておきます。商品ページを見ていただくと分かるのですが、同じような高さ調整可能なT字杖でもグリップの形が微妙に違います。実際に使ってみるとそれぞれ感触は違うはずです。

四脚杖

三脚のタイプもあります。脚が多いことで使いやすいイメージを持つ方も多いのですが、この脚の全てを地面に着けようとすると、手首をひねらなくてはならず、なかなか扱いが難しい杖です。
脚の幅が広いもの、狭いものがありますが、幅が広くなるほど脚を全て地面に着けるのが難しくなります。
円背が強いと、ちょうど手首をひねらずに扱うことができるので、背中が丸まった女性で使用頻度が多いように思います。それ以外ではほとんど勧めたことがありません。

適応が限られるので最初はレンタルで使用してみると良いでしょう。もし購入を検討しているのでしたらリハビリの担当者に相談することをお勧めします。

ロフストランド杖

前腕(二の腕)にはめる輪がついたタイプの杖です。前腕でいくらか体重を支えることができるので、握力が弱く手首や手指に負担がかけられない方や、T字杖よりももう少し杖に体重をかけて頼りたい人などが適応になります。ただし、輪がついている分だけ場所をとりがちで、使うのにも少し手間もあります。

この杖を有効に使うには、しっかり片方の下肢に体重をかけることが大切で、それにはある程度のバランス能力を必要とします。バランス能力が悪いと、体重をかけることが上手くできないので、杖が大きい分、逆に扱いにくさが出ます。整形外科の患者様で片方の下肢の能力が低い場合によく使っていた印象があります。

四脚杖と同様に適応が限られるので、こちらも最初はレンタルをお勧めします。

松葉杖

グリップの他、上腕(肩と肘の間)と肋骨の間で挟んで、身体を支えるタイプの杖です。紹介した中では最も体重を支えてくれる杖です。骨折や外傷で下肢にかける体重が制限される場合などでよく使われます。


大切なのは腋窩(脇)で支えるのでなく、腕で内側に閉めて支える という点です。腋窩にそのまま体重をかけると、そこを通過している血管や神経を長い時間圧迫して、傷つける可能性があります。腋窩から杖の上端までは指3本分の隙間 を空けるようにします。

このように使い方にコツがいるので、上肢の能力が十分にあることが適応の条件です。もし骨折などで片方の下肢に体重をかけられないのであれば、片足と杖で歩くことになるので、ある程度のバランス能力も必要です。

まとめ

杖はそれぞれで特徴があり、長所や使用する上で求められることも変わります。基本をお話ししましたが、実際にはご本人の使ってみた感覚もお伺いして、その上で適した杖を考えます。杖が必要な際は理学療法士などに相談していただくと良いでしょう。