失語症とリハビリ

病気ごとのリハビリの実際

人が生活を営む上で言葉によるコミュニケーションは大きな要素です。

脳血管疾患では様々な要因により、このコミュニケーションが障害されます。その中でも失語症は非常に大きな問題になります。脳の大脳皮質には長い年月をかけて蓄えられた言語に関する知識があります。言語知識に関係する脳の構造が損傷されると、聞こえていても言葉の理解ができなかったり、自分の言いたいことを言葉で表現できなくなったりします。このような症状を「失語症」と呼び、高次脳機能障害のひとつです。

失語症のリハビリは主に言語聴覚士が担当します。失語症は損傷した脳の部位により様々な症状が出現しますが、「話す」「聞く」「読む」「書く」といった言語機能のいずれも差こそあれ障害されます。言語聴覚士は複雑に絡み合う症状を丁寧に検査して、障害の特徴や症状に適した課題を与えます。そのことにより反応を引き出し、言語能力の改善を目指します。

適した課題というのは、必ずしもその人にとって簡単であったり、難しかったり一定のものではありません。例えば、発症直後で混乱しているような時期は、達成が難しいと混乱に拍車をかけて、訓練に対する意欲が下がる恐れがあります。わざと難易度を下げて成功体験を積んでもらうことも大切になります。一方で、状態が落ち着いて訓練に意欲的な時は、難易度の高い課題を提示しやすくなります。

患者様が重症の場合、まず簡単な単語の読解、単語、単文の復唱などから訓練を始めますが、それでも難易度が高い場合があります。そのような場合でも以前に関わりが深かったもの(仕事で扱っていたもの、好きな趣味に関連するもの)だと反応が良くなることがあります。このような時はご家族から提供される病前の情報が重要になります。

重い脳血管疾患の場合、失語症だけでなく注意障害、見当識障害など他の高次脳機能障害を合併することもあります。それらの原因で訓練に集中できない時は、刺激が多いほど訓練が難しくなるので、家族の見学を制限する場合もあります。このように少しでも良い反応を引き出すために、その人の状態によって柔軟に対応していきます。

失語症は本人、周囲ともに大きなストレスになります。重症になると簡単なコミュニケーションも難しくなり、家族としても何か手段はないものか、いろいろと試すようです。しかし、重症の失語症では多くの機能が障害されています。ジェスチャーや書字で代用しようとしても、上手くいかない場合も多々見られます。

一般の方の中には、筆談だと難易度が低いように思っている方もいるのですが、必ずしもそうではありません。その人の症状によって、有効なコミュニケーションの方法は変わってきます。人によっては書字理解の方が強く障害されている場合もあります(もちろん逆のケースもあります)。

言語聴覚士の訓練では反応を引き出して機能を高めるとともに、現状でどのようにコミュニケーションをとっていくべきか実践的な評価も行っています。できないことを強いられることは本人にとって大きな負担になりますので、無理強いはせずに、言語聴覚士からアドバイスを聞いて参考にしていただけたらと思います。

脳血管疾患の失語症については、麻痺に比べて回復が長期間持続することが知られています。重症度や年齢、症状によって回復には差がありますが、発症から半年以降も改善の可能性があり、長期的に訓練を続けていくことが望ましいでしょう。