パーキンソン病のリハビリ

病気ごとのリハビリの実際

パーキンソン病とは

パーキンソン病は脳幹から大脳皮質に向かって上行性に脳の変性が起こる進行性の病気です。最終的には脳全般が侵されていきます。様々な症状が出るのは広範囲の部位に障害が起こるためです。その進行過程で中脳の黒質という部分が障害を受けて、これがパーキンソン病の主症状である運動障害を生み出します。

この病気では脳にレビー小体という特徴的な物質が現れます。下の図はそのレビー小体の出現を順を追って説明したもので、すなわちパーキンソン病の進行の順を表した図と言えるでしょう。脳幹(中脳、橋、延髄をまとめて呼びます)から大脳の最上部である大脳皮質に向かって広範囲に病気が進行していくのがわかると思います。

病気のメカニズムについて詳しくお話しすると、私たちの運動は大脳皮質が命令することで起こりますが、それだけでは滑らかな運動にはなりません。運動をスムーズにするには力の入れ方やブレーキを適切にしなくてはいけません。その運動の調節をしているのが「大脳基底核」や「小脳」です。大脳基底核が正常に働くには中脳黒質で産生されるドーパミンが必要なのですが、病気の進行によってそれが不足になり症状が起こります。

チルチル
パーキンソン病には4大徴候と言って運動障害の特徴があるよ
パーキンソン病の4大徴候
①筋固縮
筋肉がこわばって体が固くなっていく症状です。脳血管障害(脳卒中)後の筋緊張の障害を「痙縮」と呼ぶのに対して、パーキンソン病でのそれは「固縮」と呼ばれます。痙縮が「折りたたみナイフ現象」と呼ばれて、最初は抵抗が強くても途中からスーッと力が抜けるのが特徴です。それに対して固縮は「鉛管現象」と呼ばれて一様に動かし始めから終わりまで固い状態と、「歯車現象」と呼ばれて歯車を動かすように
ガクガクッとした抵抗が感じられる場合と主に2通りあります。

②振戦
振戦とは震えのことです。パーキンソン病では「安静時振戦」と呼ばれて、何もしていない時に起こる震えが特徴的です。症状が進行するにつれて動作時にも起こることがあります。小脳障害でも振戦は起こりますが、その場合は「企図振戦」と呼ばれて何かをしようとする時(例えば、テーブルにあるコップを取ろうとする時)に起こるのが特徴で、大脳基底核障害由来の振戦とは対照的です。

③無動
動作緩慢、寡動とも呼ばれます。動きが少なくゆっくりになり、反応も鈍くなります。表情が乏しくなる「仮面様顔貌」は顔面の表情筋の無動と言われています。また、唾液が口からこぼれ落ちる症状も、本来は飲み込むはずが無動により反応が乏しくなるために起こるとされています。

④姿勢反射障害
バランスがとりにくくなり、転倒しやすくなります。筋固縮や無動と関係しながら、「すくみ足(一歩目や目標に近づくと、なかなか足が前に出ない)」「突進現象(加速すると止まらない)」「小股歩行(小股で足が大きく出ない)」などの運動症状の原因となり、日常生活の大きな支障になります。

運動症状以外では、立ちくらみ(起立性低血圧)、便秘、精神症状、言語障害、摂食嚥下障害なども見られることがあり、症状が進むと理解力、判断力の低下など認知症状が出ることもあります。

治療は薬物療法と運動療法(リハビリ)がメインになります。
脳血管疾患、認知症、加齢などで大脳基底核やそこに近い部分に障害が起こると、パーキンソン病と似た症状を出すことがよくあります。これは「パーキンソン症候群(パーキンソニズム)」と呼ばれます。似たような症状でも原因が違うため、同じ治療でも有効な場合とそうでないことがあるので注意が必要です。

パーキンソン病のリハビリ

早期からのリハビリが大切

パーキンソン病の運動症状はドーパミンが正常の20%以下に落ち込むと出現すると言われています。上の図で言えば、stageⅢくらいで運動障害が出始めると言われています。しかし、気付いた方もいるかもしれませんが、実際のところ病気はそのずっと前から始まっていて、運動障害が目に見えて出てきた時には、すでにある程度病気は進んでいるとも言えます。

パーキンソン病についてリハビリが効果があるのかは以前から議論されていました。運動が身体に良いのは当然として、それ以上の効果があるのかということが焦点でした。現在ではリハビリにより、脳の栄養物質の分泌促進や神経保護作用があることが報告されていて、早期からリハビリをすることの効用が言われています。

パーキンソン病の初発症状は50%が振戦、30%が歩行障害(すり足が多い)、20%が手の無動、動作緩慢で出現すると言われています(「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」中外医学社より)。手の症状では字が小さくなった、ボタンのかけ方やネクタイが結びにくくなったなど、一見分かりにくいこともあります。他にも小声になった、姿勢が急に丸くなった、急に便秘になったなどの症状もあります。疑わしい症状がいくつかあれば、診察を受けてみるようにしましょう。早期に発見することで薬物とリハビリにより、病気の進行を遅らせることができます。

進行するにつれてリハビリの内容も変わる

ここでは病気の進行に合わせて、どのようにリハビリをしていくのか考え方を紹介していきます。早期、中期、後期というのは説明するための便宜上のもので、公式に決まった分類があるわけではありません。また、あくまで私の経験上の見解ですので、その点もご理解して「そんな考え方でリハビリしてるんだな」くらいの気持ちで読んでいただくと良いと思います。

早期

早期のうちはまだ日常生活もご自身で送れています。運動症状については少し出始めて、足が出にくくなった、字が上手く書けなくなったなど不自由さを感じ始めた時期です。

そのような行いにくい動作に関して可能であれば練習をします。パーキンソン病の方は実際に自分が動いている範囲よりも、大きく認識している傾向があります。そのため動きが小さくなりがちです。リハビリの練習では意識的にわざと大きく行動してもらい、自分の感覚的な認識との差を感じてもらうようにします。例えば、字であればかなり大きめに意識して書いてもらい、実際に書かれた文字を見ながら、自身の感覚との差を感じてもらいます。このような練習を集中し、繰り返し続けることで症状の改善があったとの報告もあります。

👉 参考文献:「パーキンソン病の医学的リハビリテーション」日本医事新報社

また、このような時期は、運動量が減ることが考えられるので、パーキンソン病特有というよりも基礎的な運動を行うことも少なくありません。機材が揃っている施設であれば、トレッドミルと言ってルームランナーのようなトレーニング器具で運動してもらうこともあります。また、メトロノームのリズムに合わせて歩いてもらうこともあります。トレッドミルもメトロノームもパーキンソン病に効果的だという報告がある一方で、人によっては症状を悪化させるという報告もあります。その人が得意で上手く行える方法をなるべく探して選択するようにします。トレーニング器具がなければ屋外散歩でもかまいません。

リハビリと言うと、できないことを努力して克服するようなイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。特にパーキンソン病でのリハビリの目標には神経栄養物質の分泌促進も目指しています。ネガティブな感情を持ちながら運動を行うのと、前向きに気持ちを高揚させながら運動を行うのでは、おそらく後者の方が分泌も良くなることが推測されます。また、パーキンソン病で枯渇するドーパミンもそのような練習の方がより分泌されやすいと考えられます。

そのため原則として、本人のできないことを強調し過ぎたり、難易度の高すぎる課題を与えないようにします。気持ちよく自信を持って運動してもらうことを心がけます。

ミチル
パーキンソン病のリハビリでは前向きに自信を持ってもらうことが大切です。家族の人もあまり言い過ぎないでね。

中期

病気が進行するに従い運動障害も重度化し、日常生活に不自由さが大きく出てきます。生活の一部では介助も必要になってくるでしょう。本人が努力しても、こちらの指示に沿った動きができなくなってきて、早期のような活動的な運動は難しくなってきます。

このような時期には早期の内容で行えるものは継続しつつ、難易度を下げるように工夫します。例えば、トレッドミルでの歩行が難しければ、座って行えるエルゴメーター(自転車様のトレーニング器具)を用いても近い効果が得られると考えられます。難易度を下げることに難色を示す方もいるかもしれませんが、危険に細心の注意しながら固くなって運動をするよりも、快適に余裕を持って運動をしていた方が脳への効用も良いと考えられます。

歩行練習においては、すくみ足が強いパーキンソン病の方でも、床に間隔をあけた線を示して「線をまたぐように歩きましょう」と指示すると上手くできることがよく見られます。その応用として、床を見ない状態で線の位置を目標に足を踏み出してもらう練習もあります。パーキンソン病の方は前述のように、実際の動きよりも大きく認識している傾向があります。この場合は自分の歩幅の小ささを身体で上手く感じとれないと言えます。歩幅が目標より短ければ、それを目で見てもらい確認してもらってから、もう一度床の線を目標に足を踏み出してもらいます。

手を離して歩くことが難しければ手すりを使うことも考えられます。このように、本人が行いやすい方法を取り入れつつ、難易度が高過ぎない範囲で運動を続けていきます。

また、難しい生活動作については練習するとともに、福祉用具などの導入も考えます。食器類であれば自助具(障害がある方向けに使いやすく作られた道具)を導入したり、遠方の外出であれば車椅子を使用したりと考えます。また、自宅に手すりを設置したり、段差を解消したりするなど環境整備も必要に応じて行います。食事についても、飲み込みが難しくなれば食事形態の変更を考えます。これらは人によって症状の進行が違うので、それぞれの人に合った方法を考えて選択していきます。

後期

症状がさらに進行して日常生活の多くで介助が必要になります。病気へのリハビリとともに、周囲の介護負担にも考慮しなくてはいけません。前述の福祉用具の導入や環境整備だけでなく、訪問看護、訪問介護、通所サービスなどの導入も考える必要があるでしょう。本人の能力を引き出すことも大切ですが、現状の能力でどのように生活を負担少なく行っていくかの観点が大きくなっていきます。

例えば、入浴であれば、最初のうちは本人の努力や工夫で何とかなり、そのうちに手すりや福祉用具の力を借りることになります。症状が進んでくるとそれでも対応が難しいことが考えられます。介護者が高齢であれば、訪問介護や訪問看護に入浴の介助をお願いすることもできますし、通所サービスによって外部で入浴することや、訪問入浴と言って自宅に浴槽を持ってきて入れてもらえる福祉サービスもあります。

このように現状の能力を考えて、どのようにサービスを選んでいくか、いかに安全に暮らしていくかというのも大切な観点で、その判断のもとになる情報をリハビリスタッフは他の職種と連携して共有していきます。

身体に対してのリハビリも継続して行っていきます。この時期ではすでに病気は脳の広範囲に進んでおり、早期のように疾患そのものに及ぼす効果の割合は低くなっていくと考えられます。しかし症状が進行し、ご自身で動けないことで関節拘縮、筋力低下など二次的な機能低下が起こります。また、身体を動かせないことで体力は衰え、内臓機能も低下することが予測されます。

この時期は、介護者では安全に運動させることが必ずしも容易でなく、専門的な知識を持つスタッフと無理のない範囲で運動するということも大切なリハビリになります。

チルチル
病気の進行によって、リハビリの役割も変わってくるんだね

リハビリにおける注意点

最後にパーキンソン病のリハビリで注意しておくべき点をいくつか書いておきます。

まず、リハビリに効果があると言っても、それには限界があり、病気そのものを止める効果があるわけではありません。適切な薬物療法と並行して行うことが望ましいものです。

また、効果に関して過度に期待を持つ人の中には、リハビリはやればやるほど効果があるものと勘違いする人も少なくありません。ご自身でもトレーニングをしながら、適度な間隔で受けることをお勧めします。神経系の病気については過度な負荷により症状を悪化させるものも少なくありません。パーキンソン病においてはそのような独自の報告はないものの、神経系の病気一般の概念として、やり過ぎは良くないと考えられます。

主治医の先生と相談しながら、適切なリハビリの量を考えていきましょう。

そして、リハビリのことばかり考えるのではなく、身体が動くうちは旅行など、ご自身が好きなものを楽しむようにしましょう。外出すればそれ自体がリハビリになります。

パーキンソン病のリハビリの効果についてですが、症状を大きく改善するというわけにはなかなかいきません。進行性という病気の性質上、長い目で見ると症状はむしろ徐々に悪くなっていきます。

しかし、廃用症候群の予防も含めて、適切なリハビリは障害の進行を最小限にします。パーキンソン病の方の寿命は、そうでない方と比べて大きな差はないと言われています。その寿命のなるべく多くの期間を有効に活用するために根気強くリハビリを続けていきましょう。