リハビリから見た「こういう症状に気をつけたい!」~脱水・栄養不足・廃用症候群・褥瘡・誤嚥性肺炎・窒息

在宅でのリハビリテーション
ミチル
ここでは在宅療養で注意するべきポイントを、リハビリの視点からお話しします。
チルチル
脱水、栄養不足、廃用症候群、褥瘡、窒息、誤嚥性肺炎・・・・・・うわぁ、いっぱいあるなぁ

脱水・栄養不足

私は以前に在宅で多くの利用者様、ご家族に携わらせてもらい、そのリハビリを経験しました。皆さん、何かしら身体が動かなかったり生活で不便な点があったりしてリハビリを希望するわけですが、その身体が動かない原因は様々です。

脳血管障害などの大きな病気の後遺症の方もいますし、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)のような神経難病と呼ばれる病気の方もいます。加齢による関節症、脊柱管狭窄症のような整形外科的な病気の方もいます。認知症の方もいます。

しかし、身体が動かなくなる原因はそういったはっきりした病気ばかりではありません。まず多いのが脱水や栄養不足です。水や栄養は車で言えば燃料であり、それがないと動くことができません。それと同じことが身体で起こります。

訪問現場で一緒に働いていた看護師も、目立った異変もないのに急に身体を動かせなくなった場合はまず脱水を疑っていました。そのようなケースは少なくありません。

特に高齢者では喉の渇きも感じにくくなるのか、水分摂取が難しくなります。体調が悪くなったから水分や栄養をとれば良いかと言えば、なかなかそうは上手くいきません。水を飲んだり食事をしたりというのも、意外にエネルギーを使うものです。身体にそういったエネルギーがなくなった後に急に補給しようとしても、なかなか身体が動いてくれず、ますます水分や栄養がとれず悪循環に陥ってしまいます。

悪くなってから食事や水分を取ろうとしても難しいのです 😣

ご自身で十分な補給ができない場合は、点滴や栄養剤などで対処しますが、何より予防することが大事です。

環境省が2018年に発表した「熱中症環境保健マニュアル2018」では、日常生活で取るべき水分は、食事に含まれるものを除いても、1日あたり1.2リットル 🥤 が必要だとしています。また、喉が渇く前にこまめに水分を取り、特に起床時や入浴前後に摂取するように呼びかけています。

1.2リットルは実際に目の前にすると相当な量と言うことがわかります。ペットボトルの1リットルを見てみると想像しやすいと思います。
高齢者でそれだけ飲むのは大変かもしれませんが、水分の不足が続くことはそれだけ身体の機能が落ちるということです。できる限り十分な水分を補給するようにしましょう。

また、今までとれていた食事や水分が急にとれなくなった場合は、身体の異常の可能性もありますので、病院受診や看護師に相談するなどしてください。

廃用症候群

身体を動かさないこと自体が原因となり、筋力低下、関節拘縮(関節が硬くなり動く範囲が狭くなること)、体力低下など運動機能の低下を引き起こすことを廃用症候群と言います。身体に障害がある方はできる運動が限られてしまうので、廃用症候群は常に気をつけていかなくてはいけない問題です。

「動かないと身体が硬くなる」「動かないと身体が弱る」という声を患者様やご家族からもよく耳にしますので、専門用語は別として、考え自体は一般的にも通じるものになってきていると思います。

在宅でよくあるのが、1日のほとんどをベッドから動かなかったり、ソファーに座ったままテレビを見て過ごしたりするパターンです ⚠

寝ている状態では体幹筋(腹筋、背筋や腰の筋肉)を使うことがありません。また、心臓は自分と同じ高さにしか血液をおくる必要がないので弱い働きですみます。それに比べて、座っている状態では身体を支えるのに体幹筋を使い、心臓は上にある頭に血液を送らなくてはいけないので、寝ている時よりも力を必要とします。

同じ座位でもソファーと普通の椅子では身体の負担がだいぶ変わります。ソファーの方が楽なのはその通りだと思いますが、ソファーはお尻の部分が沈み込み、身体が丸まった状態で座ります。その姿勢を続けることは背骨が曲がるだけではなく、肺や内臓を圧迫し続けます。肺や内臓にとって良い環境でないのはお分かりいただけると思います。

ソファーより普通の椅子の方が身体の力を使い、背もたれにもたれているよりも、背中を離して座った方が体幹筋をより使います。

しかし、座っているだけでは下肢の力を使わず、膝は伸ばす機会がないので曲がりやすくなります。可能であれば立ったり歩いたりすることが望ましいでしょう。

可能な限り運動していただきたいのはその通りなのですが、専門的な訓練をするだけが運動ではありません。病気で安静を強いられる場合は仕方ありませんが、そうでなければ寝ている状態よりは座っていただき、座ったままよりも時々歩くといったように、少しでも活動していただくことが大切です。

参考までに1日どのくらい運動すれば良いのか目安になるデータを紹介します。2013年に厚生労働省が「健康づくりのための身体活動基準」という資料 📰 を公表しています。

そこには日常生活で体を動かす量として、18歳から64歳であれば「歩行、または同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う」ならびに「息が弾み汗をかく程度の運動を30分以上、週2回」行うことを推奨しています。

65歳以上であれば「横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもよいので身体活動を毎日40分行う」としています。65歳以上の負荷は軽くなっていますが、これは十分という意味ではありません。この資料には65歳以上であっても可能であれば18歳から64歳の活動量に取り組むことが望ましい とも明記されています。
できれば「歩行、または同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う」ことが生活能力を維持していく上で必要な活動量と言えるでしょう。


厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準 2013(概要)」より。
さらに詳しい内容はここ(厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について)から閲覧することができます。

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歩行を60分と言うと、身体が不自由な方にとってはかなり高い障壁と言えます。また、付き添いなく歩けない人にとっても難しい課題と言えるでしょう。これはあくまで目安なので、同じくらいの負担がかかる活動で代用すれば大丈夫です。ちなみにこの資料には、洗濯は歩行の2/3、皿洗いは歩行の2/3よりやや少なめの活動量だと記されています。座ってできるものとしては、座ったまま行うラジオ体操がほぼ歩行と同じ(やや少なめの)活動量とされています。

身の回りのことを自分でするだけでも立派な運動になります。そういう意味では、女性の方が家事で身体を動かす機会が多く、廃用症候群は起こりにくいように思います。

一度低下した能力は戻すまで時間がかかりますし、長い期間続いた廃用症候群は元に戻らないこともあります。何よりも予防が重要になります。

できる範囲で身体を動かすことが大切です 😊

褥瘡

褥瘡とは寝たきりの方などが長時間、同じ姿勢をとり続けることが原因で起こります。

圧迫が続くことで血流(血の流れ)が悪くなり、皮膚やその下の組織に栄養が十分行き渡らなくなります。やがてその組織の細胞は死んでしまいます。他にも原因はありますが、このように身体の一部の細胞が死んでしまうことを「壊死」といいます。また、圧迫により皮膚が弱くなった場所に、剪断力が加わることで褥瘡ができることもあります。

剪断力とは、例えばベッドを起こしたまま寝ていて徐々にお尻の方向にずれ落ちることや、介助の時に身体をベッド面と擦ることなどで起こります。現場では「ズレ」などと言っています。

寝たきりの方でなくても、脊髄損傷のような痛みを感じない方でも褥瘡は起こりやすいです。車椅子などで同じ姿勢で座り続けていることで、お尻の座面に接している骨近くにできることがあります。健康な人は感覚があるので、長い間座っていると痛みが出ます。そこで自然に動いて微妙に姿勢を変える のですが、脊髄損傷の方の場合は時間を見ながら、意識的にそれをしなければいけません。
注意している方がほとんどですが、それでも健康な方よりは起こりやすくなります。

また、褥瘡ができる原因は外部的な圧力(圧迫と剪断力)が主ですが、それに加えて栄養状態や身体の抵抗力も関連します。普段であれば褥瘡が起こらない圧迫や剪断力であっても、栄養状態や抵抗力の低下があると褥瘡ができてしまうことがあります。

褥瘡は痛みだけでなく、そこから感染症を起こしやすくなり、身体の調子を大きく落とすことにもつながりかねません。一度できた褥瘡は簡単な傷口のようには治りませんし治癒に時間がかかります ⏰

傷なので手術すればそれですむのでないかと考える利用者様もいます。しかし、褥瘡は皮膚だけでなくその下の組織も壊死をしています。手術が助けになることはありますが、それですぐに治るというものでなく、保存療法(手術をしないで治すこと)と同じく組織が再生するまで地道な治療過程 が必要になります。

褥瘡は何よりも予防が大切です。ご自身で動けない人はリハビリをしていたとしても、どうしても筋肉が硬くなり、関節の動きが乏しくなっていきます。さらに身体は細くなり筋肉が落ちた分だけ骨も隆起して、圧迫された時に血流が遮断されやすくなります。

そのような身体においては、枕やクッションを上手く配置しながら、局所の圧迫が少なく本人が楽に過ごせる姿勢をセッティングする必要があります。これをポジショニングと言います。

もし褥瘡ができたとしてもなるべく早期に治すことが大切です。薬剤やフィルム、ガーゼによる保護、適切な介助方法の徹底、ベッドマットレスの交換、ポジショニング などの対処が考えられます。

寝たきりの方であったら、身体を拭く時などに発赤(皮膚が赤くなっていること)がないか確認して、もし発見したなら早めに看護師やサービス担当者に相談するようにしましょう。

誤嚥性肺炎・窒息

食べることは人間にとって大きな楽しみのひとつです🍴  自由に動けなくなった高齢者や病気の方にとって、唯一の楽しみであることも珍しくありません。

しかし嚥下(飲み込む能力)は加齢や病気によって低下します。餅を詰まらせて亡くなる高齢者のニュースが時々流れますが、そのような危険がある活動とも言えます。

直立で歩くようになり複雑な発声を獲得する中で人間は、口から喉にかけて他の動物にはない進化をしました。それにより呼吸と嚥下の切り替えに高度なメカニズムが必要となり、問題が起こりやすくなりました。

口から喉にかけて空気も飲食物も同じ場所を通ります。喉の部分で気管(空気の道)と食道(飲食物などの道)に分かれます。空気以外のものが気管に入ることで問題が起こります。代表的なものが誤嚥性肺炎と窒息です。

誤嚥性肺炎とは気管から異物が侵入し肺で炎症を起こしたものを言います。異物とは食べ物もそうですが、口腔内の唾液や水も含まれます。純粋な唾液や水は少量であれば気管に流入しても問題はありませんが、それらが菌を運ぶと炎症を起こします。嚥下は飲食の時だけでなく、普段も唾液を飲み込んでいます。そのため、口腔はなるべく清潔に保つ「口腔ケア」の必要があります。
特に就寝時は嚥下能力がさらに落ちますので、その前に口腔ケアを行うようにしましょう。

病気後で嚥下障害を診断された方は食事形態にも考慮する必要があります。加齢にしたがい能力は低下していきますので、以前は問題なかった形態でも徐々に危険が増えることもあります。

窒息は異物が気管に侵入して、空気の流れを完全に遮断することで起こります。呼吸ができないことは即刻に命の危険につながります。窒息が起こった場合、日本医師会は意識がある段階では腹部突き上げ法と背部叩打法、反応がない場合は119番通報の後、心肺蘇生を勧めています(外部サイト「日本医師会 救急蘇生法」)。

また、推奨はされていませんが掃除機で吸引するためのノズルも販売されています。

しかし、普段吸引をしていない一般の方が、突然の窒息に対して的確に対処するのはなかなか難しいでしょうし、掃除機による吸引自体がどれほど有効かも不明です。
また、腹部突き上げ法や背部叩打法も高齢者の介護者では体格的に難しいかもしれません。そのような場合は横向きに寝かせて背中を叩いて咳を促すようにしましょう。

最後に誤嚥性肺炎と窒息は健康な高齢者でも起こることであり、100%防止することは難しいと思います。それに飲食は楽しみにしている人も多く、安全との兼ね合いに悩むところでもあります。

誤嚥性肺炎も窒息も予防することが大切です。食事形態や安全管理について、あらかじめ医師などと相談して危険を理解するとともに、心の準備も含めて可能な備えをするようにしましょう。