自宅退院か施設入所かという悩み

入院でのリハビリテーション

重度の後遺症を持つ場合、リハビリ病院の入院期限が迫り、この後どうするかという時に「自宅退院するのか」「施設に入所するのか」という問題は避けて通れません。ご本人も家族もとても頭を悩ませる問題だと思います。

私は病院、施設、在宅でのリハビリを経験しましたので、これから家に戻る人もすでに戻った人も施設に入所した人も、いずれも見たことがあります。多くの患者様と家族を見る中で、自宅に退院できる人とそうでない人は何が違うのかという疑問に突き当たりました 🤔

その疑問を当時、勤めていた訪問看護ステーションの上司に尋ねたことがあります。看護師として多くの在宅療養者を支援してきた方です。

「基本的に家に帰れない人というのはいないと思うよ。最後、家で看取る人もいるんだからね。その人や家族がどのくらい、家で生活したいか、それ次第だと思うよ」

私もこの意見に賛成です。
大病を患うと、今まで当たり前にできた多くのことができなくなります。言葉を話す、ご飯を食べる、トイレで用を足すといった生活する上でごく基本的と思えることすらできなくなります。

では、それができないと家で生活できないかというと、そういうわけではありません。

私の担当した利用者様の中には、寝たきりながら一人で生活している方が何人かいました。ご飯はヘルパーに用意してもらい、トイレは自分で行えないのでオムツにします。自力で排泄できない場合は、看護師が定期的に訪問して導尿(管を尿道に入れて排尿を促すこと)や摘便(肛門から指を入れて便をかき出すこと)をすることもあります。

これらの方々の場合、周囲は施設入所を勧めました。行き届かないことがあるとしても、その方がずっと快適な暮らしに感じられたからです。しかし、ご本人のどうしても家が良いという意思のもと在宅での生活が続いています。

障害や後遺症が大きいほど、自宅が不便であることは間違いありません。我慢することも多くなります。介助する人がいても同様です。看護師や介護士のように全てを滞りなくできるわけではありません。それに病院や施設は交代で勤務していますが、家族に替えはありません。介護にも休養が必要です。その間は一時的に施設に入所するなど、いつもと違った対応が必要になります。

不自由であることへの強い覚悟が家に帰る上でまず求められます。

それさえ理解できていれば、ほとんどの場合、家に退院することは可能です。病院に頻回に行くのが難しければ、家に往診に来てくれる在宅医が今は数多くいます。医療的な支援は訪問看護ステーションから看護師が来てくれます。その他、訪問介護、訪問入浴、通所サービス、ショートステイ(短期入所)など、自宅で生活するにあたって支援してくれる保険適用サービスが現在は整っています。

もちろん、サービスに全てお任せというわけにはいきません。ご本人や家族の負担は多くあります。それでも高齢者夫婦の介護(老老介護と呼ばれます)で、このようなサービスを用いながら、実際に多くの方が在宅で生活されています。

また、独居の場合も判断に苦しむところだと思います。一人暮らしの場合、運動機能が良かったとしても認知症が問題になることがあります。認知症が進むと、薬を指示通りに飲むことが難しくなります。服薬できないことで運動機能や健康面に支障が出る可能性があります。また、火の元を忘れるようなことがあると、他所に迷惑をかける恐れもあります。

このように不安が多い独居ですが、それも訪問サービスや通所サービスを上手く活用したり、環境を整えたりして生活を成り立たせることができます。火の元の問題にしても、例えばガス製品や石油製品をやめて、全て電化製品にすれば危険を減らすことができます。

このように多くの場合、家に退院できないかと言われれば、できないことはないのです。ただし、家に帰るという選択が必ずしも素晴らしいかといえば、私はそうも言い切れないと思います。たとえ生活が成り立ったとしても、本人や介護者が疲弊しきってしまうような状態でしたら、施設入所を考えても良いと思います。

家で過ごしたい、できたら家で過ごしてもらいたいという気持ちはとても大切です。そのような場合は、施設に入所したとしても1ヵ月のうちの何回か週末だけでも外泊したらどうかと勧めます。週末なら家を出ている子供や家族にも応援を頼みやすいですし、無理そうなら延期すれば良いのです。

自宅が良いか施設が良いかという問題はケースバイケースです。私が実際に見た利用者様でも、在宅で上手く生活している方もいれば、施設に入所したことで見違えるように生き生きとした方もいます。家も不自由がありますが施設も行き届かない部分がたくさんあります。一概に良し悪しは言えません。

大切なのは、ご本人や家族が前向きに安心して生活できることです。そのためにもっとも良いと思われる方法をじっくり考えてください。そして、考えがまとまらず、どうしようもない時は病院スタッフに遠慮なくそのように話してみてください。

本人と家族の考えが違う時、家族が本音を言い出せずに苦しむ場合もあります。そのような時もスタッフに相談してもらうと良いと思います。伝えないことで、スタッフも気付かないまま、本人の意向に沿って話を進めてしまうかもしれません。最終的な選択は本人と家族がすることですが、相談することで違う視点が見つかることや糸口が見えることも多いのです。