退院以外の選択肢 ~老健、特養、障害者支援施設、有料老人ホーム 

入院でのリハビリテーション
チルチル
ここでは、老健、特養、障害者支援施設、有料老人ホームについて説明します。
もし、自宅に帰ることが難しそうなら、施設入所という選択肢もあります。施設も多くの種類があり、それぞれに特徴があります。入居施設は様々な種類がありますが、ここでは「介護なく生活することが難しい」くらいの能力を想定して、よく候補にあげられる施設について説明します。

介護老人保健施設(老健)

病院入院後も後遺症などで家に戻れない方を対象に、リハビリを提供して自宅復帰を目指す入所施設です。そのため、理学療法士、作業療法士などリハビリ専門職の配置も義務付けられています。

基本的に65歳以上で介護保険の要介護1〜5の状態であることが入所条件です。

「病院で少し時間が足りませんでしたね、ではもう少しリハビリを行いましょうか」というサポート的な立場のため、入所期間は多くの施設で3ヶ月から半年ほどを設定しています。しかし、現実にはもっと長い期間入所している利用者様も多くいます。
家に帰るというのが前提なのですが、実際のところ、多くの施設で十分な役割を果たせていないのが実情で、永住する施設を探すまでの一時的な入所施設という位置付けになりがちです。

理由としては、施設では専門職によるリハビリの時間も大きく減り、スタッフもリハビリ病院に比べれば限りがあります。そもそも病院から自宅に退院できなかったということは、帰れないだけの理由を抱えているということです。そのような利用者様に自宅で生活してもらうのは簡単なことではありません。

このような現状を受けて、国は老人保健施設の強化をはかっています。在宅復帰率、ベッド回転率、入所前後・退所前後の訪問指導割合などで「在宅強化型」「基本型」「その他型」に分類し、さらに「在宅強化型」からは「超強化型」、「基本型」からは「加算型」を分けて、合計5つに分類しました(下の表を参考にしてください)。
在宅復帰という本来の役割について、実績をあげることで報酬が加算される仕組みになっています。以前から「在宅強化型」「在宅支援加算型」「従来型」という分類はあったのですが、平成30年度よりさらに細分化されて、方針が推進されています。

↓厚生労働省「平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について」より

当然、「在宅強化型」の方がリハビリや自宅復帰に対する取り組みは手厚いと思います。ただし、このような老健に入所したからといって、その期間で本人の能力が劇的に上がるかと言えば、多くはそうではありません。
リハビリ病院での入院期間で、ほとんどの人は回復期を過ぎているはずです。老健での期間は住宅改修をするなど周囲の環境を整えたり、病院でのリハビリで足りなかった部分を補ったりして、退院前の準備を整える期間と考えてもらう方が現実的でしょう。

在宅復帰率が高いということは、それだけご本人や家族にも在宅への意志を求められます。長い期間入所していることは難しいでしょう。必ず自宅に帰るという意志があるのか、施設入所のままを基本線で考えているのか、その違いによっても選ぶ老健は変わってくるでしょう。自分たちが希望する方針と合っているのか、入所前に確認しておく必要があります。

老健の部屋には「従来型個室」「多床室」「ユニット型個室」「ユニット型個室的多床室」と4種類あります。

「多床室」は病院と同じような複数人の相部屋で、4人部屋が多いように思います。老健は法律で一部屋が4人以下と決まっているので、収容限度人数の考えに基づいて作られているのだと思います。
ユニット型とは、入居者を10以下のグループに分け、1つの生活単位とします。各部屋はプライバシーに考慮して個室か、相部屋であっても仕切りなどを用いて個室に近い環境にします。入居者同士が交流し、共同に生活する空間を設けています。考え方としては下の図がわかりやすいと思います。

↓「介護老人福祉施設(参考資料)」(第143回(H29.7.19)社保審-介護給付費分科会 資料2)から一部抜粋

左の図は多床室ですが、従来型個室も4人部屋が個室に変わっただけで考え方は一緒です。右図の個室部分を仕切りで区切られた多床室に変えたものがユニット型個室的多床室の考え方になります。
ユニットケアの考え方としては、共同生活をすることで人間らしい社会性を保つと同時に、時に役割を担いながら個人の自立・尊厳を保つことが目的ではないかと私は解釈しています。家族や交流の多い寮生活のようなイメージです。

私も祖母が老健に入所しているのですが、実際のところは、必ずしもそのような特別なことが行われているわけではなく、個室化が進んで、食堂を兼ねた広いスペースがあるという印象です。施設によってその点への取り組みは違うかもしれません。

老健は公的施設のため、入居一時金などの設定はなく、月額料金のみ払う形になります。月額には主に賃料、食費、介護保険負担額、その他実費があります。他にも利用者様の状況やサービス内容によって加算が加えられます。
賃料は部屋のタイプによって変わります。月30日計算で従来型個室とユニット型個室的多床室が49200円、多床室が11100円、ユニット型個室が59100円です。食費、介護保険負担額は施設による違いはありません。実費は施設ごとに設定されています。

全てを含めると月の負担は8万円~15万円ほどです。介護保険料については1割負担と考えて計算しています。収入が一定額を超えると負担割合が変わりますので、あくまで目安としてご理解ください。

特別養護老人ホーム(特養)

老人保健施設がリハビリをして自宅復帰を目標にしているのに対して、特別養護老人ホームはあくまで重症者の生活の場であり終の住処としての性質を持っています。

基本的に65歳以上で介護保険の要介護3以上の状態であることが入所条件です。

自宅復帰がもはや現実的でない方やその家族にとっては、これ以上他所に移る必要のない特養は高いニーズを持っており、入所のための待機期間が長いことが社会問題として提起されるほどです。

理学療法士などリハビリ専門職の訓練は義務付けられていませんが、近年のリハビリへのニーズの高まりを受けて配置する施設も増えてきています。

部屋のタイプは老健と同様に「従来型個室」「多床室」「ユニット型個室」「ユニット型個室的多床室」の4種類です。

特養も老健と同じく公的施設のため、入居一時金などの設定はなく、月額料金のみ払う形になります。月額には主に賃料、食費、介護保険負担額、その他実費があります。他にも利用者様の状況やサービス内容によって加算が加えられます。賃料は部屋のタイプによって変わります。月30日計算で従来型個室が34500円、多床室が25200円、ユニット型個室が59100円、ユニット型個室的多床室が49200円、です。食費、介護保険負担額は施設による違いはありません。実費は施設ごとに設定されています。

全てを含めると月の負担は9万円~14万円ほどです。介護保険料については1割負担と考えて計算しています。収入が一定額を超えると負担割合が変わりますので、あくまで目安としてご理解ください。

障害者支援施設

65歳未満の障害者のための入所施設です。かつては身体障害者療護施設や知的障害者更生施設など、障害の種類によって適応となる法律や対象施設が分かれていましたが、2006年の障害者自立支援法の施行により、それらがひとつになり「障害者支援施設」という名前に統一されました。

法律的には障害の種類に関係なく、利用者様を受け入れることができますが、もともと専門にしていた障害の方を中心に受け入れている施設も多いようです。
こちらも理学療法士などリハビリ専門職の配置は必須ではないですが、ニーズの高まりを受けて最近は勤務している施設も増えてきています。

費用は、介護サービス費、食費・光熱費、その他実費があります。本人と配偶者の収入によって負担額は変わりますが、様々な補助制度があり、少なくても1月あたり手元に25000円は残るように減免されます。

費用負担について細かく知りたい方は「障害者の利用者負担」(厚労省)を参考にしてください。
また、各々の具体的な相談や補助制度については、お住まいの市町村にお尋ねください。

有料老人ホーム


今まで紹介した施設と有料老人ホームの大きな違いは、前者は料金のほとんどが公的制度に基づいて設定されていた(施設による差がない)のに対して、後者は施設ごとに自由に設定されている部分が大きいことです。入居時に払う一時金もそのひとつで、設定がない施設もあれば数千万円必要な施設もあります。

有料老人ホームを選ぶ時はサービスや立地だけでなく、費用についても頭を悩ませることが多いようです。他の施設に比べると、金額が高めになりがちな有料老人ホームですが、老健や特養に空きがない場合は貴重な受け入れ先になります。

有料老人ホームにも種類がいくつかありますが、主に「介護付き有料老人ホーム(一般型)」「介護付き有料老人ホーム(外部サービス型)」「在宅型有料老人ホーム」に分かれます。

「介護付き」と名前がついた有料老人ホームは、都道府県から「特定施設入居者生活介護」という指定を受けています。これは厚生労働省が定めた施設基準を満たしているということで、基準には入居者3人に対して介護職員、看護職員が1人以上いることなどが求められています。

いずれの施設も食事などのサービスが受けられますが、最も大きな違いは介護が必要になった場合の対応が変わるという点です。3つの有料老人ホームについてそれぞれ説明していきます。

介護付き有料老人ホーム(一般型)

特徴は介護など全ての支援を施設の職員や設備で担います。

料金は全サービス込みの定額制でわかりやすく、介護も施設所属の職員が行うので、時間や細かい要望にも融通が利きやすいでしょう。

一方で、外部の介護保険サービスを使うことができません。つまり、その施設が有している人的資源や設備以上のサービスを受けることができないということです。例えば、リハビリ専門職が勤務していなければ、そのような機能訓練は受けることができません。また、福祉用具のレンタルも行えません。

入所当初は問題なくても、年齢が進んだり、障害が重くなったりした時に、施設の状態次第では受けたいサービスが受けられない可能性があります。そのような場合も見越して施設を考えると良いでしょう。

介護付き有料老人ホーム(外部サービス型)

生活相談、介護保険のケアプラン作成、安否確認などは施設が請け負いますが、介護に関しては、食事介助や入浴といった生活に必要なものであっても提携した外部の事業所がサービスを行います。
主にケアマネージャー業は施設側が行い、他は施設が提携している外部サービスで行うという形です。

後述する「在宅型有料老人ホーム」と「介護付き有料老人ホーム(一般型)」の中間型と考えれば良いでしょう。

介護保険サービスを外部に委託しているため、経営者側はサービスを揃えやすいと言えます。受ける立場からすると、施設側の都合で受けるサービスが左右されにくく、本人に合った介護が受けられるというメリットにつながります。

一方で、受けるサービスは外部の事業所が担当しますので、利用分だけ基本料金に加算されることになります。また、時間においても訪問するという形ですので、時間の融通は一般型に比べると利きにくいでしょう。また、あくまで施設が提携している外部事業者に限られるので、そこが合わないからといって他の事業所に自由に変更するというわけにはいきません。その点で受けるサービスの自由度に制約はあります。

ただし、外部の事業者と言っても、身の回りの介護においては施設と同法人内の介護事業所が行うことも多く、実際に介護を受ける立場からするとそんなに感覚は変わらないかもしれません。

在宅型有料老人ホーム

ここではケアマネージャーも含め、介護サービスは全て外部の事業者が行います。居住環境と食事は付いていますが、それ以外は在宅と比較的近い環境と言えるでしょう。

ケアマネージャーも含めて、介護サービスの事業所は全てご自身で選ぶことができます。必ずしもご自身で探したり手配したりする必要はなく、ケアマネージャーが決まればそこで調整や手配は行ってくれるので、希望を伝えて相談しながら決めていけば良いでしょう。

施設を運営する法人が介護事業所を運営していることも多く、ご本人に異論がなければ身の回りの介護においては併設した事業所が行うことも珍しくありません。そのような場合、介護付き有料老人ホームの外部サービス型と同様に、実際に介護を受ける立場からすると施設の職員に世話をしてもらっているような感覚かもしれません。

在宅型の良い点は、やはりサービスの事業所を自由に選択できることでしょう。自宅ですでに介護サービスを受けていた場合は、そのまま引き継ぐことも可能です。どのような分野でも、事業所ごとに職員の配置やサービスの質に違いがあります。訪問看護など医療的な処置が必要なサービスでは、慣れたところが良い場合もありますし、もし技術的に低いようなことがあると身体に悪い影響を及ぼしかねません。

ケアマネージャーにおいても能力の低い方が担当すると、援助によって本来できるはずだったことができなかったり、場合によっては身体の状態を悪化させたりすることにもつながります。

そのような場合も考えると、自分でサービスや事業所を選択できるという点は大きなメリットになります。

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ここでは、有料老人ホームについて主に、介護が必要になった時のシステムの違いについて書きましたが、他にも施設ごとに入所時の料金や利用費が異なりますし、居室の雰囲気や利用者様の年齢層、持病の傾向なども変わってきます(例えば、認知症の方が多く入所されている施設や身体の障害が軽い方ばかりの施設など)。

老人ホームというと静かな印象を持たれるかもしれませんが、私の見た有料老人ホームの中には、職員の小さな子供たちが遊びに来ていて、高齢者の方と楽しそうにしているような場所もありました。施設ごとにそれぞれ違いがありますので、実際に自分の目で見て判断する必要があると思います。

それともうひとつ、有料老人ホームにおいては、医療依存度にどこまで対応できるか、それぞれの施設で変わってきます。例えば胃ろうを造設した場合、人工呼吸器を付けた場合など、どこまでの病状なら受け入れてくれるのか、施設の方針や人的配置によって変わります。病状が悪くなりすぐに出て行くことになったら、それは大変なことです。

どのくらいの状態までなら受け入れてもらえるのか、事前に確認しておくことで心の準備をすることもできます。もちろん、完全に未来を保証することは不可能なのですが、判断材料のひとつにすると良いでしょう。
施設によっては終身利用が保証されていないところもあります。有料老人ホームはそれぞれでルールや契約の形が違うので、しっかり確かめて、納得して入所することが大切です。