病期によるリハビリの違い

Empty wheelchair parked in hospital
リハビリの基礎知識
チルチル
病期ってなんだろう? やたら難しい言葉だなぁ

医療では、その時の病気の回復具合や進行状況を区分します。これを「病期」と言い、それぞれ役割に合った医療機関や施設が患者を受け入れるようにしています。このようなシステムは病状に合わせた適切な医療やサービスを、スムーズに受けられることを目的にしています。
病期は主に急性期、回復期、慢性期、終末期に分けられます。慢性期は維持期や生活期と呼ばれることもあります。それぞれ病期によってリハビリテーションの目的も変わってきます。
例えば、全国にある日赤病院はほとんどが急性期の病院です。リハビリテーション病院と名前がついているものは回復期が多いと思いますが、場合によっては急性期や慢性期も受け入れています。
なお、変形性関節症やパーキンソン病など一部の病気については、その進行具合を表すそれぞれの病期も存在します。ここでは一般的な病気の状態を表す用語としての病期を説明しています。

急性期

病気の発症から時間が経過しておらず、身体の状態が不安定で安静が必要な期間です。この時期のリハビリは廃用症候群(身体を動かさないことで機能が低下すること)の予防が中心となります。安静期間での関節拘縮(関節が硬くなり動かなくなること)や筋力低下を最小限にするために、病状に支障がない程度の訓練を行います。また、骨折など外傷の場合、ケガをした場所以外は問題ありませんから、それらの能力が低下しないように訓練を行います。
リハビリ室に行くことが難しい場合には、病室で訓練を行います。これを「ベッドサイドリハビリテーション」(略してベッドサイドリハなど)と呼びます。
従来、急性期は積極的なリハビリは行わないというのが考え方でした。しかし、安静がその後の回復を遅らせることや、高齢者では認知症が進むことへの危惧もあることから、病状を管理しながら早期から歩行や立ち上がりなど積極的なリハビリを行う試みも見られています。集中治療室(ICU)でリハビリを行っている病院もあります。
不必要な安静はデメリットが多く、この「急性期」を短くしようとする取り組みが日々、医療では行われています。

回復期

身体の状態が安定して、リハビリを行うことで大きな回復が見込まれる期間です。回復期になると、長期のリハビリが想定される方は専門の病院に移ります。
病院では理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などから集中的な訓練を受けます。多くの方がリハビリと聞いてイメージするのが、この時期の専門職による機能訓練ではないでしょうか。
また、病棟での生活も大切なリハビリの一部です。入院生活全体がリハビリという考えのもと、医療チームで意見交換をしながら、ご自身で行っていただくこと、見守りながら行うことなどを決めて、出来ることを増やしていきます。
試験的な外泊を導入することで、退院後の問題がないか確認も行います。課題がありましたら、それに対する訓練や住宅改修、介護サービス導入の検討など行い、退院後の生活に向けてさらに準備を進めます。
回復期がどのくらい続くかというのは、病気やケガの種類によって異なります。2000年から新設された「回復期リハビリテーション病棟」という制度では、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)であれば、発症から2ヵ月以内の患者を受け入れることができ、150日まで入院できるとあります。高次脳機能障害をともなった重度の障害であれば、180日まで入院できるとあります。
大腿骨、骨盤、脊椎、股関節もしくは膝関節の骨折であれば、発症または手術後から2ヵ月以内の患者を受け入れることができ、90日まで入院できるとあります。
そこから見ると(もちろん実際には病状によって個人差がありますが)、一般的に脳血管障害であれば発症より半年から8ヵ月、骨折であれば5ヵ月までが回復期の目安と言えるでしょう。

慢性期(維持期・生活期)

回復期が過ぎて改善が緩徐になった、または見られなくなった状態を慢性期(あるいは維持期、生活期)と呼びます。加齢や関節症などで身体に不自由を持ちながら、家で過ごしている方もこの時期にあたります。
病院の集中的なリハビリを離れた後も、回復した能力を維持していく必要があります。徐々に病状が進行する難病の方、家で過ごす高齢者の方などにとっても、予防的な観点からとても重要な時期になります。
多くの人にとって、急性期や回復期より慢性期がずっと長い時間です。この時期を適切に過ごせないと、本来は維持できたはずの能力を低下させてしまうことになります。
病院や施設でなくても、多くの場合、介護や福祉サービスを利用してリハビリを受けることができます。しかし、それだけでなくサービス以外の時間も自分でできることを行ったり、家族と外出したり、社会と関わりを持つなど、日常生活の中で活動することが大切なリハビリとなります。
施設や在宅(自宅療養している方への支援)で仕事に携わった経験としては、慢性期のリハビリは回復期のおまけではなく、同じくらい重要なものです。そして病院や施設と違って、それぞれが置かれている環境や生き方の違いがあり、必要な介入も変わる多様性を持ったものです。
予防においては、明確な病気がある場合と比べて、リハビリの必要性や効果の判定が難しい部分があります。残念なことに状態が重篤化してから受診や相談に訪れるケースも多く、予防が必ずしも行き渡っているとは言えない現状です。
高齢化が進むにつれて予防的な観点はますます必要になるでしょう。慢性期のリハビリについては今後、サービスの充実はもとより、啓蒙活動などで社会的な認識を高めることも大切になると思います。

終末期

がんの末期などで病状が進み、回復が見込めず余命が限られると診断された場合、そこから死ぬまでの期間を終末期(あるいはターミナル期)と呼びます。期間について定義はありませんが、長くても3ヵ月から半年という死に向けた直前の期間を指すことが多いようです。例えば余命が限られているとしても、期間が3年以内など間隔が長い場合や、病状の進行が不明瞭な場合は終末期とは呼ばれません。
この期間の医療は病気による身体的、精神的な苦しみを緩和し、最後まで人生の質を保つことを目的としています。回復の見込みがないため、体力を消耗したり苦痛を助長したりするような処置は基本的に行われません。
このような終末期でも希望や状況によってリハビリを行うことがあります。
例えば運動が不足することで関節拘縮が進むと、着替えなど生活動作で痛みが出る可能性があります。そのような症状を未然に防ぐことも終末期のリハビリのひとつです。また、軽い運動を行うことで血液など体内の循環を促し、ベッド上の生活で起こりがちな腰痛や関節痛を緩和、予防することも期待できます。
医学的に回復の見込みがないとしても、その受け入れは人によって様々です。リハビリを行うことを心の拠り所にして過ごす方もいます。生まれて幼児期から人は何かしら運動を行っています。人生の最後まで「動く」ことで、人は生きていることを実感できるのかもしれません。
人生の最後をどのように生きたいか ―― 終末期のリハビリは人それぞれの価値観や生き方に寄り添うことを基本に訓練を行っていきます。